『覚書』と『契約書』の違いと注意点とは?
(1)基本合意書としての覚書
主にM&Aにおいて、最終契約を締結する前の交渉途中の段階で、いくつかの基本的な事項を確認するために作成されます。このような覚書は、LOI(Letter of Intent)、MOU(Memorandum of Understanding)、基本合意書などとも呼ばれます。
最終的な合意を定めるものではないため、取引内容に関する合意がなされていたとしても、それはその時点における仮の合意事項になります。そこで、このような覚書を作成する場合、当該書面における条項の法的拘束力について明記しておくことが重要です。具体的には、取引の対象となる物や権利の数量、対価の額などのビジネス面の取引内容に関する仮の合意事項を定める条項には法的拘束力がないこと、他方、守秘義務、独占交渉権など交渉の前提となる事項を定める条項には法的拘束力があることを明記します。
(2)契約書の付随的・具体的事項を定める覚書
たとえば、特定の商品を毎月売買するといったように同種の取引を繰り返す場合に、共通する基本事項を定めた取引基本契約を締結することがあります。この場合には、取引基本契約書の存在を前提として、個別の取引について、取引の対象となる商品の種類、数量、納期等を覚書に定めて締結することがあります(一般に、このような覚書は、基本契約の対になる契約として、個別契約と呼ばれます)。
他方、1回の取引に関する条件を定めるために契約書を作成する場合においても、売買や作成委託(請負)の対象となる物の仕様、対価の支払期限などの取引において重要な事項について、契約書では『別途書面にて定める』と記載し、後にこれらの事項について覚書を作成するということもあります。
しかし、これらの取引における重要な事項は、あくまで契約締結時に可能な限り具体的に特定して契約書に明記しておくべきです。そうしなければ、契約を締結した後になって、当事者間で取引の重要事項に対する認識の齟齬が発覚した場合、契約の解消や損害賠償などの問題が生じるリスクがあるからです。
そこで、紛争を未然に防ぐためには、『別途書面にて定める』という定め方は極力避けた方がよく、このような覚書を作成するのは、やむを得ない場合を除いては避けた方が無難です。
(3)変更覚書
一度契約書を作成し、締結した後は、基本的にはその契約書には法的拘束力が生じ、勝手に契約内容を変更することはできません。しかし、実務上、契約締結後に、契約事項に追加や修正などの変更の必要が生じる場合は少なくありません。そのような場合、契約当事者全員の合意をもって、既に締結した契約書の内容を変更する旨を明記した覚書を作成することになります。この場面が『覚書』というタイトルを付けるケースが最も多いかもしれません。
・本文
第1条(原契約第〇条の変更)
原契約第〇条を以下のとおり変更する。
【変更前】
○○○
【変更後】
□□□
第2条(有効期間)
本覚書の有効期間は、本覚書締結日から原契約終了日までとする。
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取引基本契約書③。(前文、目的(基本原則))
今日は、前回の『取引基本契約書②。(概要)』の続きです。
今日は契約書面の中の具体的な条項の説明として【 前文 】と【 目的(基本原則) 】を文例とその説明という形で取り上げていきたいと思います。
パターン②
『株式会社○○○○海外営業部(以下「甲」という)と株式会社●●●●ソリューション事業部(以下「乙」という)とは、甲乙間の取引に関し、基本的事項を定めるため、次の通り基本契約を締結する。』
⇒契約の主体となり得るのは、法的に権利能力、意思能力、行為能力を認められる自然人や法人(企業)なので、ここではあくまで『株式会社○○○○』と『株式会社●●●●』間の契約ですが、その条件では範囲が大きくなってしまい、当該取引の内容を表現するには不適切だと考えられる場合、前文内でセクションを限定することで契約の範囲を限定することがあります。
※権利能力⇒私法上の権利・義務の帰属主体となり得る資格。
※意思能力⇒有効に意思表示をする能力。自己の行為の結果を弁識できる精神的な能力。
※行為能力⇒単独で有効に法律行為をなし得る地位または資格。未成年は行為能力がない。
⇒国際取引などで用いられる前文(頭書)を日本語訳したものです。
国際取引の場合、間に商社などを挟むことが多いと思われますので、日本語で契約書を提示しておけば、完全に投げっぱなしよりも自社の意図を伝えることができます。
ちなみに英文であれば、
『THIS AGREEMENT is made and entered into this 取引基本契約書とは 1st day of January 2007, by and between ○○○○ CO., LTD., a corporation organized and existing under the laws 取引基本契約書とは of China and having its registered office located at △△△△△△△△△△△△ and 取引基本契約書とは ●●●● Corporation a corporation organized and existing under the laws of Japan and having its registered office located at ▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲.』
というような感じになります。
【 目的(基本原則) 】
パターン①
『甲(発注者)および乙(受注者)は、本契約に基づく取引を、相互繁栄の理念に基づき、 信義誠実の原則 に従って行うものとする。』
「売買契約書」とは何か?雛形付きで書き方を解説します!
まず初めに、売買契約書とはどのようなものであるのかについてご説明します。
売買契約書とは、売主と買主が売買契約を締結する際において、当事者間で合意した事項について書面にまとめたものです。
売買契約自体は、売買契約書の作成によってその効力が発生するという訳ではありませんが、契約の当事者間において取り決めた事項を書面にまとめておくことで、その後の紛争を予防することや、訴訟に発展した場合における証拠書類として提出することができます。
売買契約書の項目
「売買契約の目的物について」
「目的物の引渡し及び所有権が売主から買主に移転する時期」
「売主及び買主の義務」
「代金の支払い時期及びその方法」
「売主の瑕疵担保責任」
「免責事項」
「危険負担」
「損害賠償に関する事項」
「契約解除条項」
「合意管轄」
「代金の支払いが遅れた場合における利息率」
「遅延損害金」
作る際に押さえておくべき基本事項や注意点
では、売買契約書を作成する際には、どのような点に注意する必要があるのでしょうか。
まず、売買契約書における各項目は、なるべく具体的かつ明確に規定しなければなりません。
規定が曖昧になってしまうと、契約当事者間で条文の解釈に違いが生じ、後に紛争になってしまうおそれがあります。
どんな種類のものがあるのか?
一口に「売買契約書」と言っても、その種類は非常に多岐にわたります。
商品の売買を行う際における「物品売買契約書」や、不動産の売買を行う際における「不動産売買契約書」、農地の売買を行う際における「農地売買契約書」、企業間等で継続的な売買の取引を行う際における「継続的商品取引基本契約書」等、それぞれのケースごとに様々な種類のものがあります。
取引基本契約書とは
★ZIP圧縮しています。解凍する際にパスワードをきかれますので、1234 と打ち込んで下さい。
出てきたフォルダの中に、2つのファイルが入っています。
「売主有利」の契約書雛形と「買主有利」の契約書雛形がセットになっています。
売主側が契約の提案をする場合は「売主有利」の契約書雛形、買主側が契約の提案をする場合は「買主有利」の契約書雛形を使用して下さい。
そして交渉の過程において、双方の雛形に記載された条項を取捨選択して、売主と買主の双方が納得できるものとして下さい。
★『売買基本契約書(売主有利)』に含まれる条項
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第1条(目的、物品の売買)
第1項:本契約の目的に関する規定です。2020年民法改正により、契約解除を主張したり、契約不適合責任に基づく請求をしたりする場合に、契約の目的が重要視されることになったため、契約書に契約の目的を記載しておきます。
第2条(基本契約性、個別契約の成立)
第1項:基本契約と個別契約に関する規定です。
→本契約と個別契約間にて規定が異なった場合の取扱いを定めていますが、ここでは「個別契約が優先する」としています。
もちろん「本契約が優先する」と規定することも可能ですが、個々の業務の実情に合わせた規定を個別契約に定めたほうが臨機応変に対応できることから、個別契約を優先させることが一般的です。
第2項:「売主がこれを承諾したとき」に個別契約が成立するものとしました。
→より具体的には、「売主が買主に対し注文請書を交付すること」等で、「売主がこれを承諾した」ことになります。
→売主側からの注文請書の交付を待たずに買主側からの注文書の交付のみで個別契約が成立とする場合、売主が注文書の交付に気がつかなかった場合に債務不履行責任を負う可能性があります。
第4条(品質保証)
売主有利とするには、品質保証の条項そのものを規定しないのもひとつの方法です。
ここでは、「定められた使用方法を用いる場合に限り」という文言を加えることにより、保証の範囲に制限を設けています。
第5条(支給)
買主からの支給品が必要となる場合、本条項を規定して下さい。
→ここでは、買主の一方的な条件ではなく、売主と買主が協議して条件を定めるものとしています。
第7条(商品の納入)
売主有利となるように、納入に要する費用を買主の負担としています。
→納入の費用は売主が負担するのが原則(民法第485条)なので、買主の負担とするには本条のように特約を設ける必要があります。
第8条(商品の検査)
第1項:売主として、買主からの検査終了の通知がない場合の手当を規定しています。
第2項:売主は、買主から通知を受けた場合には瑕疵の存否内容を自ら再調査できるようにするため、このような規定を定めます。
第4項:引渡しの完了時を明確にしています。また、売主有利となるよう、引渡し完了により責任を免れる旨を規定しています。
第15条(遅延損害金)
【遅延損害金等について】
→下請法や消費者契約法にならい、年率14.6%としています。
第16条(契約不適合責任)
契約不適合責任を一切負わないとするのが、売主に最も有利です。
本条項では売主が契約不適合責任を負担する場合でも、買主からの通知の期間を制限し、それ以降は負担しないこと、不適合が発見されたとしても売主が任意の方法で対処できることを規定しています。
この場合、売買基本契約書(買主有利)第17条(契約不適合責任期間経過後の措置)に対応する規定は不要となります。
第23条(損害賠償)
売主と買主の、相手方に対する損害賠償に関する規定です。
赤字箇所は、損害賠償の範囲を限定するものです。(必要に応じて、全部または一部を残すか削除して下さい。)
【損害賠償の範囲:民法関連条文】
下記条文(民法第416条)が規定する損害賠償の範囲では過大な場合は、契約にて損害賠償の責任範囲を限定します。
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民法第416条(損害賠償の範囲)
1.債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2.特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、または予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。
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第26条(契約解除)
★2020年4月1日施行予定の改正民法により、新たに無催告解除できる場面が認められました(改正民法542条)。
→「催告解除」とは、契約を解除する前に、相手方に対して契約の履行を督促する手続き(「催告」といいます)をとらなければならない解除の方法です。
→「無催告解除」とは、相手方に対して契約の履行を督促する手続き(「催告」といいます)をとらずに、いきなり解除する解除の方法をいいます。
第30条(連帯保証人)
売主有利とするため、買主に連帯保証人を付けています。
(連帯保証人を設けない場合は関連箇所を削除して下さい。)
★2020年4月1日施行予定の改正民法に合わせた規定としています。
第1項:連帯保証人が個人の場合、契約締結時に極度額(連帯保証人の責任限度額)を定める必要があります。(極度額を定めていない連帯保証条項は無効とされます。)
第2項:連帯保証人が個人の場合、受託者は連帯保証人に対して、契約に先立ち、ここに定める項目について情報提供する必要があります。
★『売買基本契約書(買主有利)』に含まれる条項
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第1条(目的、物品の売買)
第1項:本契約の目的に関する規定です。2020年民法改正により、契約解除を主張したり、契約不適合責任に基づく請求をしたりする場合に、契約の目的が重要視されることになったため、契約書に契約の目的を記載しておきます。
第2条(基本契約性、個別契約の成立)
第1項:基本契約と個別契約に関する規定です。
→本契約と個別契約間にて規定が異なった場合の取扱いを定めていますが、ここでは「個別契約が優先する」としています。もちろん「本契約が優先する」と規定することも可能ですが、個々の業務の実情に合わせた規定を個別契約に定めたほうが臨機応変に対応できることから、個別契約を優先させることが一般的です。
第2項:「売主がこれを承諾したとき」に個別契約が成立するものとしました。
→より具体的には、「売主が買主に対し注文請書を交付すること」等で、「売主がこれを承諾した」ことになります。
→売主側からの注文請書の交付を待たずに買主側からの注文書の交付のみで個別契約が成立とする場合、売主が注文書の交付に気がつかなかった場合に債務不履行責任を負う可能性があります。
第5条(支給)
買主からの支給品が必要となる場合、本条項を規定して下さい。
→ここでは、買主所定の条件で支給することを定めています。
取引基本契約における債務不履行による損害賠償について解説 ~ 債権法改正を踏まえて
民法(改正前も改正後も)には、取引基本契約の定義について特に規定があるわけではありません。
ですが、企業間取引において、例えば特定の商品を将来にわたって、継続的に売買することが予定されている場合に、その1回1回の売買ごとに、毎回売買契約を結ばなければならないとすると、非常に煩雑であり、企業間において、商品がスピーディーに流通しにくくなります。
そこで、民法上は特に規定はありませんが、企業間において、継続的に取引することが予定されている場合には、あらかじめ予定されている取引の全てに共通して適用される契約内容を合意しておくことがあります。
これによって、その後の個々の取引をスピーディーに、かつ簡便に進めていくことができます。
3.代金支払い債務と商品引渡し債務の発生時期(個別契約の成立時期)
(1)取引基本契約における代金支払い債務と商品引渡し債務の発生時期
売買の取引基本契約を例にして説明しますと、取引基本契約自体は、売買契約そのものではありません。
つまり、取引基本契約を結んだだけでは、商品を引き渡す義務は発生しませんし、商品の代金を支払う義務も発生しません。
取引基本契約を結んだ後に、個別契約が成立することにより、売買契約が成立し、商品引渡し義務と代金支払い義務が発生しますので、債務不履行の有無を検討する前提として、いつどのような売買契約が成立したのかを確定する必要があります。
(2)個別契約の成立時期に関する民法改正点
なお、契約の申込みに対して、何の回答もしなかった場合の規律は現行民法のとおりです。
民法上は、承諾期間内に何も回答が無かった場合は、申込みは効力を失います(契約は成立しない)(現行民法521条2項、改正民法523条2項)。
しかし、「平常取引」を行う関係にある商人間の取引においては、申込みに対して何も回答が無かった場合は、承諾したものとみなされます(商法509条2項)。
取引基本契約を締結している企業間は、「平常取引」を行う関係にある商人となるのが通常ですので、取引基本契約書において、申込みに対して何も回答が無かった場合の取決めを定めていなければ、商法509条2項が適用されます。
4.代金支払い債務の遅延損害金について
(1)遅延損害利率の民法改正点
- 民法上は年5%(現行民法404条)
- 商法上は年6%(現行商法514条)
(2)取引基本契約に遅延損害利率を明記しておく必要性
5.商品引渡し債務の不履行による損害賠償について
(1)債務不履行による損害賠償に関する民法改正点
① 履行不能以外の債務不履行責任の免責事由の明記
この条文では、履行不能以外の債務不履行(前段)の損害賠償請求に債務者の帰責事由が要件となっているのか不明確でした。
しかし、判例上は、債務者の帰責事由が要件であると解釈していました。
今回の民法改正では、そのことを明記しました。
② 債務不履行責任の免責事由の立証責任
③ 履行に代わる損害賠償
-
取引基本契約書とは
- 債務が履行不能であるとき
- 債務者が債務の履行を拒否する意思を明確に表示したとき
- 契約が解除され、又は債務不履行による契約の解除権が発生したとき
④ 取引基本契約書とは 履行遅滞中の履行不能
⑤ 原始的不能の場合の損害賠償
⑥ 取引基本契約書とは 損害賠償の範囲
債務不履行による損害賠償請求ができる場合に、債務者はどの範囲の損害を賠償する責任を負うのかについては、現行民法416条1項は「これによって通常生ずべき損害」を賠償する義務を負うことを定めています。
また現行民法416条2項は「特別な事情によって生じた損害」であったとしても「その事情を予見し、又は予見することができたとき」はその賠償義務も負うことを定めています。
改正民法においても、416条1項において「これによって通常生ずべき損害」を賠償する義務を負うことを定めていることに変わりはありません。
他方で、416条2項は「特別な事情によって生じた損害」について、「その事情を予見し、又は予見することができたとき」という要件を、改正民法においては「その事情を予見すべきであったとき」と規定しています。
⑦ 賠償額の予定
債務不履行による損害賠償請求が認められる場合であっても、損害額がいくらであるのか、どこまでの範囲の損害を賠償請求することができるのかが、争いになることがあります。
そこで、損害額に関する紛争を予防するために、債務不履行によってどのような損害が発生したのかに関わらず、契約において、あらかじめ損害賠償額を定めておくことが考えられます。
この点については、現行民法420条1項に規定に「当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。
この場合において、裁判所は、その額を増減することができない。」との定めがあり、賠償額の予定と呼ばれるものです。
(2)取引基本契約に与える影響
上記(1)の①~④は、これまでの判例を明文化したものです。
また上記(1)の⑥も、現行民法の下においても、債務者が予見していたか又は予見できたという事実の有無だけでなく、予見すべきだったかという規範的な評価を問題にしていましたので、これらの改正点は、取引基本契約に与える影響はさほどないと考えられます。
さらに上記(1)の⑦も、これまでの判例を反映させたものといえます。
(3)民法416条2項の解釈論について
この場合、反対有力説(「契約の両当事者が契約締結時において当該損害を予見し又は予見可能だったか」を検討するべきとする見解)によれば、Bが違約金50万円の存在をAに告げたのはAB間の売買契約成立後ですので、AB間の売買契約成立時点では、Aは違約金の存在を知りませんので、Aの債務不履行によりBがCに違約金50万円を支払わざるを得なくなること(特別の損害)を予見することはできません。
そのため、「契約締結時に、特別の損害を両当事者が予見すべきであった」ということはできません。
したがいまして、BはAに対して違約金相当額を賠償請求することができません。
京都大学法学部卒業、同志社大学法科大学院(ロースクール)修了、 ベリーベスト法律事務所に入所後、主に労働事件、離婚事件等の一般民事や刑事事件を手掛けているが、 中小企業からの法律相談、訴訟対応、債権回収や契約書のリーガルチェックなども手掛けている。
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