ストックオプションの流れと基本的な仕訳の考え方を説明した後、事例で解説します。
スタートアップ・ベンチャーの担当者が最低限知っておくべきストックオプション制度と税制適格の仕組みとは?
なお、発行から一定の期間が経過した後にストックオプションの対象者・配分等を決定できるストックオプション信託(SO信託)を導入すると、入社タイミングによる、権利行使価額・キャピタルゲインの格差が生じず、実際の貢献度に応じたストックオプションの付与が可能となります。スタートアップにとっては、税制適格ストックオプションよりも柔軟でかつさらに使い勝手のよいストックオプション制度の設計も可能です。ストックオプション制度の設計の応用編として、SO信託については「連載 スタートアップ経営者必見!ベンチャーファイナンスの法律実務 第1回 ストックオプション制度の新潮流」をご参照ください。
1. 付与対象者 | 自社および子会社(50%超)の取締役、執行役および使用人(ただし大口株主およびその特別関係者、配偶者を除く) |
2. 所有株式数 | 発行済株式の3分の1を超えない |
3. 権利行使期間 | 付与決議日の2年後から10年後まで |
4. 権利行使価額 | 権利行使価額が、契約締結時の時価以上 |
5. 権利行使限度額 | 権利行使価格の合計額が年間で1200万円を超えない |
6. 譲渡制限 | 他人への譲渡禁止 |
7. 発行形態 | 無償であること |
8. 株式の交付 | 会社法に反しないこと |
9. 保管・管理などの契約 | 証券会社等と契約していること |
10. その他事務手続き | 法定調書、権利者の書面の提出 |
税制適格ストックオプションを発行する際の実務上の留意点
付与対象者・所有株式数について
- 上場株式の場合、発行済株式総数の10分の1超を保有する者およびその親族等一定の関係者
- ①以外(非上場株式等)の場合、発行済株式総数の3分の1超を保有する者およびその親族等一定の関係者
また、会社の従業員でなく業務委託のエンジニア等に税制適格ストックオプションを付与したいとの相談もありますが、原則的には付与対象者の要件を満たさない点にも注意すべきです。ただし、2019年の通常国会において付与対象者を拡大し、一定の要件を満たす外部協力者へのストックオプション付与も税制優遇措置の対象になりました。詳しくは「税制適格ストックオプションがスタートアップの外部協力者まで適用拡大、要件・手続のポイントは?」をご参照ください。
権利行使期間
税制適格のストックオプションの権利行使期間は、「当該新株予約権もしくは新株引受権または株式譲渡請求権にかかる付与決議の日後2年を経過した日から当該付与決議の日後10年を経過する日までの間」(租税特別措置法29条の2第1項1号)とされています。
権利行使価額
その他の注意点
近年上場した会社のストックオプションの割合等
会社名 | 上場時の発行済株式総数に対する潜在株式の割合 | 発行回数 | IPO時時価総額 (初値) (億単位未満切捨て) | 事業概要 |
---|---|---|---|---|
メルカリ | 20.9% | 39回 | 6766億 | フリマアプリ |
ツクルバ | 15.1% (※うちSO信託が約2.6%) | 10回 | 191億 | リノベーション・中古住宅流通プラットフォーム |
フリー | 14.9% | 21回 | 1165億 | クラウド会計ソフトウェア |
メドレー | 14.6% | 13回 | 350億 | 医療ヘルスケア |
ユーザベース | 12.5% | ストックオプションの意味とは12回 | 206億 | 経済情報プラットフォーム |
Chatwork | 11.1% | 7回 | 541億 | ビジネスチャットツール |
ランサーズ | 10.0% | 10回 | 136億 | フリーランスと企業とのマッチングプラットフォーム |
BASE | 9.7% | 7回 | 232億 | E コマースプラットフォーム |
スペースマーケット | 9.7% (※うちSO信託が約6.9%) | 4回 | 146億 | 遊休不動産のスペース貸し借りのプラットフォーム |
マクアケ | 9.4% | 2回 | 297億 | クラウドファンディングプラットフォーム |
ラクスル | 7.3% | 11回 | 452億 | 印刷通販サイト |
Sansan | 3.3% (※うちSO信託が約1.8%) | 4回 | 1424億 | 名刺管理サービス |
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2009年慶応義塾大学法学部卒業、2011年東京大学法科大学院修了、2013年弁護士登録。契約法務、ビジネス適法性診断、商事紛争、労働法分野、情報法分野(個人情報、営業秘密)等、創業段階~上場企業の企業法務全般において幅広く業務対応を行っている。特にベンチャーファイナンス分野に注力し、シード・スタートアップの株式・新株予約権の設計、投資契約対応等において多くの相談実績を有する。主な著作に『知らないと大変なことになる 会社の個人情報対策』(共著 自由国民社,2014年)等。
ストックオプションとは?株価との関係や税金について解説
ストックオプションとは、株式会社の社員や役員(取締役)が、自社株をあらかじめ決められた価格で取得できる「権利」です。「SO(Stock Option)」とも表記されます。“Stock”は株、“Option”は選択権を意味します。
資金調達や敵対的買収防衛などを目的に発行される、株式を特定価格で取得できる「新株予約権」の社内版といえます。もともとアメリカで生まれた制度ですが、日本では1997年の商法改正にともない、利用されるようになりました。1999年に東証マザーズがスタートすると、ベンチャー企業の上場増加を背景に、導入企業が増えています。
ストックオプション導入に適している会社とは
ストックオプションと新株予約権の関係
前述のとおり新株予約権とは、企業が発行する株式を一定期間内に特定価格で取得する「権利」のことです。通常の新株と異なるのは、権利行使に対する「予約」ができる点にあります。
新株予約権は、以前は他の株式や社債と組み合わせて発行するといった制限がありましたが、2002年の商法改正以降、単独で発行されるようになりました。
ストックオプションは新株予約権の一つであり、あくまで社内向けの制度です。おもな権利行使者(付与対象者)は社員や役員(取締役)ですが、2019年に中小企業等経営強化法が改正され、一定の要件を満たせば外部協力者(企業の成長に貢献するプログラマー、エンジニア、弁護士など)にも適用されるようになりました。
出典:経済産業省 ニュースリリース(2019年8月9日)
ストックオプションの仕組み
(例)A社のストックオプション制度 |
---|
【権利行使価格】500円/株(割当上限2,000株) |
【権利行使期間】導入後2年~10年間 |
【権利行使者】役員、社員 |
ストックオプションの種類
有償ストックオプション
無償ストックオプション
株式報酬型ストックオプション
ストックオプションのメリット
社員のモチベーションアップ
採用面に役立つ
ストックオプション制度は、人材採用にあたってアピールポイントになります。就職・転職情報サイトの中には、企業の検索条件にストックオプションの有無を設定しているところもあります。
ストックオプションは会社の株価が上がるほど、個人の得る利益が大きくなる制度なので、能力も自信もある人材にとっては魅力的です。
高い技術力と将来性があるベンチャー企業でも、スタートアップ時は資金不足で優秀な人材を集めるのが難しいものです。新規上場を予定している場合、ストックオプションの導入が採用面に役立つケースが多く見られます。
権利付与した従業員へのリスクがない
ストックオプションのデメリット
社員の間で不公平感が生まれかねない
業績悪化による影響を受ける
社員が権利を使用した後に退職する可能性がある
M&Aにおけるストックオプションの取り扱いと注意点
譲受企業(買い手)の完全子会社になる場合
譲受企業(買い手)と合併して法人格が消滅する場合
ストックオプションに関連する税制優遇措置について
税制適格ストックオプション
(例)A社のストックオプション制度 |
---|
【権利行使価格】500円/株(割当上限2,000株) |
【権利行使期間】導入後2年~10年間 |
【権利行使者】役員、社員 |
(例)A社の「税制適格ストックオプション」課税額算出 ※2,000株で計算 |
---|
【課税対象額】(8,000円-500円)×2,000 ストックオプションの意味とは =1,500万円(譲渡所得) 【譲渡所得税額】1,500万円 × 20% = 300万円 |
⇒【課税額】・・・300万円 |
権利付与 | 無償で権利付与されたものであること |
権利行使者 | 次のいずれかに該当する者 ・発行会社のの取締役・執行役または使用人 ・発行会社の子会社(発行会社の50%超の株式保有)の取締役、執行役または使用人 ※付与決議日において大口株主および大口株主の特別関係者、配偶者を除く ・一定の要件を満たす外部協力者 |
所有株式数 | 発行済株式の3分の1を超えないこと |
権利行使期間 | 付与決議の2年後から付与決議の10年を経過するまでの間に行われること |
権利行使価格 | 契約締結時の時価以上であること |
権利行使価格の制限 | 権利行使価格の合計額が年間で1,200万円を超えないこと |
譲渡制限 | 譲渡制限(他人への譲渡禁止)が付されていること |
株式の交付 | ストックオプションの意味とは権利行使による株式発行が会社法の規定に反しないで行われること |
保管・管理など | 権利行使による株式が保管の委託、管理などが、証券会社など金融商品取引業者との契約のもと行われること |
その他 | 権利を行使する際に、法定調書、権利者の書面などを発行会社に提出すること |
税制非適格ストックオプション
①権利行使時(自社株を購入した時)
権利行使時の「株価(時価)」と権利行使価額の差額が「給与所得」になり、所得税が課税されます。
累進課税のため、税率は住民税と合わせて最大55%にも上ります。多い時は利益の半分を税金として納める必要があります。さらに、株式の売却前に課税が先行する「キャッシュイン無き課税」となるため、納税資金の確保が求められます。
なお、権利行使者がすでに退職している場合は「退職所得」に、業務に関連する第三者の場合は「事業所得」や「雑所得」になることもあります。
②株式を売却した時
株式の売却価格が権利行使時の株価を上回っている部分が「譲渡所得」となり、所得税が課税されます。税率は住民税と合わせて約20%です。
A社の場合、時価5,000円の株を500円で購入時に、4,500円が「給与所得」となり、株価がさらに上昇し8,000円なった時に売却したら、購入時の株価との差額3,000円が「譲渡所得」になって、それぞれ課税されます。
多額の課税をされると、社員や役員が得るメリットが少なくなるので、意欲がそがれてしまう恐れがあります。
ストックオプションの導入手続き
- 募集事項の決定と通知
- 総額引受方式による手続
- 新株予約権原簿の作成と新株予約権の登記
新株予約権の募集要項の主な内容は以下のとおりです。(会社法 第238条 募集事項の決定)
- 募集新株予約権の内容及び数
- 無償発行か否か
- 募集新株予約権の払込金額(募集新株予約権一個と引換えに払い込む金銭の額)またはその算定方法
- 募集新株予約権を割り当てる日
- 募集新株予約権と引換えにする金銭の払込みの期日を定めるときは、その期日
1.公開会社の場合
公開会社は取締役会の設置が義務付けられています。そのため、募集事項の決定は原則として取締役会で決められます。ただし、新株予約権が特に有利な条件となる「有利発行」の場合、株主総会の特別決議が必要です。
また、議決した内容は、原則として割当日の2週間前までに株主に通知することになっています。
創業者が語る、誰も教えてくれない「ストックオプション」…SmartHR 、LayerX、カウシェ編【1万字対談】
加えて、(宮田さんの)SmartHRさんのようにレイター(上場前の安定成長期)までステージを進めて大成功するのは、日本のスタートアップではまだ珍しい例です。5〜7年くらいでマザーズに上場するケースの方が多いので、(経営者としては)正直、そのくらいの期間は在籍して貢献して欲しいという気持ちもあります。今のアメリカのように上場までの期間が10年を超えるケースが普通で、さらにそれが伸び続けているような状態に日本もなってくると、SOもそれに合った形に自然となっていくのかなと。
宮田:さっきの、「半分は退職しても権利行使できる」ように変更した話ですが、全部じゃなくて半分にしたのは福島さんと近い考えです。従業員側にも多少はデメリットがないと、釣り合わないと当時は思っていました。
そもそもなぜ最初から退職しても失効しない仕組みにしなかったかというと、「初めての起業で知識がなかった」のと、「なるべく従業員には長く在籍して欲しいと考えていた」からなんですね。
でも実際にやってみると、まぁ長いんです。「SmartHR」の提供を始めて6年になるんですが、スタートアップの6年は本当に長い。これがもし10年となった時に、最後までやる人ってどのくらいいるんだろうと。何年間も働いてくれたのに途中で辞めてSOを失効するのは経営者としても申し訳ないですし、辞めた従業員も最後まで残って金銭的に成功した人を見たら面白くないんじゃないか。それって変だな、なんか違うよねと思うようになりました。
広がり始めた「信託型SO」、その理由は
税制適格SOは取得時や権利行使時に税金の支払い義務はなく、株式を売却した時まで課税が繰り延べされる。権利行使価格が年間1200万円を超えてはならず、付与決議日から2年経過後かつ10年以内に行使しないといけないなど決まりは多いが、従業員への負担も少なく、日本のスタートアップではポピュラーなものだろう。
一方で近年、導入企業が増えているのが信託型SO、正式には「時価発行新株予約権信託」だ。このスキームでは企業価値が上がる前の低い価格で発行したSOを信託で一時的にプールしておくことができるため、企業は「誰に」「どのくらい」付与するかを後で決めればよく、従業員も入社時期にかかわらず同価値のSOを得ることが可能だ。
—— LayerXのSOは、どのような設計になっていますか?
福島:無償のもの(税制適格)と信託型のものどちらも利用しています。これには前向きな理由も、後ろ向きな理由もあります。税制適格SOは権利行使価格が年間1200万円を超えてはいけないので、価値が上昇したレイターステージなどに入社した人は、もらってもほとんど行使できない可能性もある。一方の信託型はそういうこともなく、従業員にとってはすごく有利な仕組みです。(広義で)僕らの採用競合となるような会社さんはほぼ導入しているので、「(信託型を)取り入れない」選択肢はなかったです。
宮田:信託型SOが出てきた時はものすごく話題になりましたよね。税制適格SOは付与された人が実際どれだけ活躍するか分からないですし、たとえ最初の半年や1年すごく活躍されてても、その後も続くか分からない。なのでエイっと配りにくい、ないしは配った後に不整合が起きやすいインセンティブでした。
その点、信託型は評価制度と連動して付与することが可能なので、活躍した人に活躍した分だけ、実績に基づいて適切に渡すことができる。しかも行使価格が発行したタイミングでロックされるので、後から配ると旨味が減っちゃうみたいなこともないのは、大きなメリットですよね。
福島:ただ正直、本当に安定性があるのかというところは疑問に思っています。実は税制適格じゃなくなりましたとか、税務的に不安定だから従業員が行使できないとなったらどうしよう、と。信託型SOを使って上場している企業もあるのでそんな可能性は少ないと思いますが、100%信託型に振らずに無償の税制適格SOとのハイブリッドにしているのは、そうした懸念からです。
SOの配り方には「組織のポリシー」が表れる
SOをいつ、誰に、どの程度付与するかは重要な資本政策だ。ただし、SOの発行は事業会社が無制限に発行できるわけではない。2001年の商法改正以前は、付与できるSOは発行済み株式総数の10%以下に定められており、現在は制限が廃止されたものの、慣例として10%前後が望ましいとされている。
『IPOを目指す会社のための資本政策+経営計画のポイント50』(佐々木義孝)によると、2017〜18年9月までに新規上場した企業のSO発行比率は平均値で7.5%、中央値で10.4%だった。ちなみにVC比率は同25%、14.3%だ。
福島:SOを発行する意義はリスクを取ってくれた人たちと成功を分かち合うことだと考えているので、LayerXでは今のところは入社する正社員全員に配っています。もっと人数が増えた時にこのポリシーを変える必要が出てくるかもしれませんが、少なくとも今のフェーズでリスクを取ってくれた人には報いたいと思っていて。
門奈:本当にそうですね。カウシェは今アーリーステージなんですが、どんなにビジョンやカルチャーに共感して入社していただいたとしても、キャリアも給与もリスクを取ってきてくださる方がほとんど。やっぱりその気持ちにしっかり報いたいという思いがあります。
福島:僕の周りの経営者は、社員にSOを配りたくないとか、騙そうとか思ってる人は1人もいません。でも先を見渡せないことによる難しさから、結果的に完璧な配分にはならない……。
SOの配り方には組織のポリシーがよく現れていると思うんですが、早くリスクを取ってくれた人に多く報いる傾向があるというのは、受け取る側の皆さんは知っておいた方が良い情報な気がします。SOで一攫千金を狙うならリスクを取ろう、という考え方が大事かなと。
大切なのはテクニックよりも時価総額
—— 経営者同士でSOの設計について情報交換することはあるんですか?
門奈:僕はアメリカのSOの事例を参考に設計しました。シリコンバレーのスタートアップのSOは退職しても失効せずに、一定期間、だいたい3カ月間は行使できるようになっているところが多いんですよね。スタートアップを転々としながらSOのポートフォリオを持っているような人もいるという話も聞きました。
福島:配分などはメガベンチャー、たとえばメルカリが上場した時に、どういう資本政策をやっているのかなどは参考にしました。このくらいのタイミングで、これくらいのリスクを取った人にはこういう配分なんだと。基本的には想像通りでした。
いろんな会社さんのSOの使い方を見て分かったことは、「SOは一般的に10%くらいの発行が相場になっていること」それくらいしかない。なので、行使価格を下げるとかのハック的なことよりも、(最適解がないがゆえに)会社をめちゃくちゃデカくする方が大事だと思ったんですよね。(時価総額)100億円で上場して1株持ってますみたいな状態は、従業員が取ってくれたリスクに見合わない。だったら1兆円目指す方法を考えよう、その方がみんなハッピーだし、そうじゃなかったらダメだという方向に、僕は頭を切り替えました。
門奈:従業員からしたら(SOの)0.1%が100億の会社と1兆円の会社では意味が全く違ってきます。
宮田:経営者ではないんですけど、SmartHRに初期から投資してくれているCoral Capital創業パートナー兼CEOのジェームス(James Riney氏)に相談したことがあります。SOそのものというよりCOO候補の方へのオファーだったんですが、ジェームスに「その条件だったら僕は受けない」と言われて。その時のSOは辞めたら失効するものだったんです。
未上場で巨大化するスタートアップに10%は適切か?
福島:多分これから僕らが考えないといけないのは、IPOまでの期間が長くなるんですよね。そうなった時に今まで通りのやり方でいいよねと思考停止するのは間違ってると僕も思ってます。
宮田:これから未上場で巨大化するスタートアップが増えていくと、今の日本の(発行済み株式総数における)SO比率のスタンダードである10%は、従業員に配るには少な過ぎるんじゃないかなと。これでは大成功した時に、創業者とVCだけが儲かり過ぎる。
なので元々は10%だったんですが、途中で株主達と協議して少し増やして、マックス(最大限)に発行しました。それでもダイリューション(1株あたりの価値が低下)していくので、(最初から)マックス20%くらいまで交渉して枠を確保しておくべきだったと、今となっては思っています。
門奈:僕らも元々10%だったんですが、日本市場はもちろん、いずれは世界でも頑張りたいので、グローバルスタンダードから見てもっとここは上げていくべきだということを投資家の皆さんにお話させていただいて、その後15%まで増やしました。
会社の成長とSO枠が連動する契約を
宮田:今思うのは、初期から20%くらい発行できるようにしておいて、ダイリューションしたり、一定のマイルストーンを踏まなかったら一部失効するような契約のSOを作っておけばよかったなと。会社が大きくならなかったら10%くらいで収まって、大きくなったら20%まで使えるような設計の方が、いろんな意味でフェアなんじゃないかと思うんです。
福島:それは良いですね。想定時価総額でバーをおいて、クリアしたらこれくらいSO枠が増えるよと最初に交渉しておくのは、確かにめちゃくちゃフェアですよね。
だって事業計画って変わるじゃないですか。もともと社員300人くらいで上場だと思っていたのが1000人になることって、本当に起こり得るので。
宮田:うちの会社がまさにそうなんです。「社員50人、バリュエーション100億円で上場することを目指すぞ!」と言っていたのに、今すでに社員500人を超えてるので……。
例え話ですけど、今のタイミングで僕が福島さんを引き抜こうとしたら(笑)、普通の給与だったら無理じゃないですか。ここでガツンとSOを何%か渡せたら良いなと思うんですけど、やっぱり後になればなるほど、株主と交渉することが難しくなります。でも、さっき話したような設計だと、後半で「事業をさらに大きくするためにこの人は絶対にとりたいからSOを追加してでもボーナス的に払うべきだ」という時にも使えるので。
投資家との交渉には課題も
宮田:(そういう段階的な設計は)信託SOでももしかしたら実現可能かもしれないと、うちのCFOの玉木さんが言ってました。たとえば信託SOとして20%発行しておいて、10%はいつでも使えるけど、この5%とこの5%は一定の成長を達成しないと使えないという失効条件をつける設計なら、VCの人も損しないでしょ、と。
—— 初期の頃にそういう契約を結べるといいんでしょうか。
宮田:それは難しいかもですね。リテラシーの問題だったり、そこに時間を使うくらいだったら事業を頑張れよって気持ちもあるので。
福島:僕はグノシーの時は学生起業だったんですけど、学生の状態でVCにその交渉ができるかというと流石に自信はないですね。それが社会のスタンダードになっていたら言えるんですけど……。
門奈:この記事を投資家の人に「ほら」って見せたらイケるかもしれません(笑)。
日本の金融教育の課題、「SOは怖い」で内定辞退も……
—— SOは従業員のモチベーション向上に貢献する一方で、制度は複雑です。従業員の皆さんに制度設計を説明する上で心がけている(いた)ことはありますか。
門奈:まず全力で説明しようと思ってます。SOってなんとなく怖いし聞きにくい、同僚とも喋っていいのかな?という空気があると感じていて、それをガラッと変えにいきたいんです。
新しいSO制度についてリリースを出したのもそうですし、社員にも、「SOはみなさんが今後スタートアップで活躍していく上でめちゃくちゃ重要なリテラシーです。SOを持っている=一株主ということでもあるので、なんでも聞いて欲しい、むしろぜひ話させて欲しい」と言ってます。
SOが紙クズかもしれないという概念も変えていきたいですね。
福島:それはそうですね。(経営者としては)結構な思いを持って発行してるのに……。
宮田:ある上場企業の経営者の方から聞いたんですけど、すごい金額のSOを持ってらっしゃった社員の方から転職を申し出られたそうで、驚いて「いやいや何で?」と聞くと、「(問題は)給与です」と。「嘘でしょ?」となって、あなたのSOはこんなに価値があるものなんですよ、と説明したら転職止めますとなったそうで。
(別のケースでは)これは又聞きなんですけど、新卒の方などにSOを付与しようとすると、「株は怖いものだと幼い頃からずっと教わってきたらしく、騙されているかもしれないということで退職したり、内定を辞退した」という嘘みたいな話を、本当によく聞くんですよね。
門奈:「親から断れと言われました」という方もいらっしゃいますよね。
宮田:なので、いろんな方法で説明する努力をしていく必要があると思ってます。
シミュレーションで具体的かつフェアな説明を
宮田:うちの会社でやっていたことの1つが、シミュレーターです。信託SOについては評価制度と連動していたので、当時の人員計画をベースに、このくらいの等級(評価)で、時価総額がこのくらいだと、キャピタルゲインはこのくらいになりそうだというのを計算できるようにしていました。
採用のオファーを出す時によく利用していたんですが、これ刺さってる方にはめちゃくちゃ刺さってて、毎週それを見ながらお酒を飲んでる人もいたくらい(笑)。一方で、「入社後見たことないっすね」みたいな人もいたので、促してその場で見てもらったら「えっ、こんなんなってんの?」と驚かれることもあって。やっぱりもうちょっと使わなきゃいけなかったなと思ってます。
福島:イメージわかないですもんね。「何株です」と言われても、「それってつまりどういう意味ですか」?みたいな。そこを理解する手助けをしてくれるようなシートは、実はLayerXでも作ってます。
ただこれも「入社してくれたら何億になりますよ」とか、こっちが言いすぎるのはNGだと思うんです。そうじゃなくて、こういう時価総額にしていきたいけど、その場合はこれくらいのキャピタルゲインのイメージになりますよとフェアに伝えることがすごく大事。
門奈:僕は先輩方のシミュレーションシートをただひたすら参考にさせていただいてます(笑)。
現金 vs. ストックオプション、あなたならどうする?
門奈:あとは従業員のリテラシーを上げてもらうために、オファーを出す時に2案作るようにしています。SOが多くて給与がリスクを取っているものと、給与はリスクを取らない代わりにSOは軽くなるものを提示して天秤にかけてもらってるんです。もちろん提示する際にこちらからSOの説明はさせていただきますが、同時に選ぶ過程で本人にも勉強して欲しいなと思っていて。
福島:それはすごくいいやり方だと思います。自分の報酬を給与じゃなく株式でもらった方がいいんじゃない?という啓蒙ですよね。アメリカはそもそも給与を現金で全額もらうという考えの方が珍しくて、むしろ株式報酬の割合が高い。SOも含めて給与なんですよ。でも日本は投資の経験が少ない人が多いので、そうした意識があまりないんですよね。
宮田:実はうちの会社も1度カウシェさんと同じことを考えたんですけど、(SmartHRの場合は)やりませんでした。理由は「SOが強すぎるから」。やっぱり現金化された時のインパクトが全然違うので。
—— SmartHRは2020年9月入社以降の従業員に対して、SOを付与するのではなく、半年に1度の成果給を支給する方式に変更されていますね。
宮田:はい、今はSOから現金に変わったという感じです。以前は「給与一律、月35万円」みたいな時代もありました。そうすると皆さん、だいたい前の会社より給与を下げて入社して下さってたんですね。今もそういう方もいらっしゃるにはいらっしゃるんですが、そういうことが以前より起こりづらくなってきています。それにリスクとリターンはセットだと思っているんですが、リスクを取っていただかなくとも報酬を支払える規模になってきたことが背景の1つです。
福島:さっきも話しましたが、SOも「sameリスクsameリターン」。フェーズによって配り方にも当然メリハリがつきますし、より少ないリスクでより多くのリターンを、というのは僕はフェアじゃないと思います。
門奈:それは本当にそうですね。SOは三者三様。皆さんが選べる状態になるよう、こうして情報を発信していくことに価値があると信じています。
ストックオプションの実務
こんにちは。弁護士の池田です。
1. ストックオプション付与の目的
2. 税制適格
(1) 税制適格の意味
(i)課税時期を遅らせることができる。
(ii)税率を下げる
(2) 税制適格の要件
(i)対象者
(ii)行使価額
(iii)行使期間
(iv)行使態様
3. M&A対応
(i)ストックオプションを行使して取得した株式を売却
(ii)ストックオプションのまま売却
(iii)ストックオプションを放棄し、会社から別途のインセンティブを付与
(ストックオプションの意味とは iv)ストックオプションを放棄し、買収側から別途のインセンティブ(買収側のストックオプション等)を付与
4. その他
(1) 付与比率
(2) ストックオプションプール
(3) 発行可能株式総数
(4) 付与手続
ストックオプションは便利な制度であり、多くのベンチャー企業で利用されています。最近では信託型というストックオプションも登場し、今後もストックオプション全体の利用は拡大していくでしょう。 AZXで何度か行っているストックオプションセミナーでも多数の方に出席いただいており、ストックオプションへの関心の高さを強く感じます。 ストックオプションを上手く活用するベンチャー企業が増え、ベンチャー業界全体の発展につながれば素晴らしいことですし、このブログがその一助になれば幸いです。
【初心者向け】ストックオプションの仕訳は?基礎からわかりやすく
ストックオプションの流れと基本的な仕訳の考え方を説明した後、事例で解説します。
ストックオプションの仕訳の流れ
ストックオプションには上記のように、「ストックオプションの付与」「権利確定」「権利行使」「権利失効」があります。
ストックオプションで仕訳が発生するのは、「ストックオプションの付与」「権利行使」「権利の失効」のタイミングです。
仕訳で流れを見てみましょう。
【ストックオプションの付与の仕訳】
借方 | 貸方 | ||
株式報酬費用 | XXX | 新株予約権 | XXX |
【権利行使】
借方 | 貸方 | ストックオプションの意味とは||
預金 | XXX | 資本金 | XXX | ストックオプションの意味とは
新株予約権 | XXX |
【権利失効】
借方 | 貸方 | ||
新株予約権 | XXX | 新株予約権戻入益 | XXX |
ストックオプションは従業員や役員の給与の前払いともみなせるので、「株式報酬費用」という費用の勘定科目で仕訳をし、相手勘定は新株予約権となります。
株式報酬費用を計上する金額は「公正価値」と呼ばれ、計算方法は非常に複雑で、証券会社など外部機関に委託するのが一般的です。
以下、事例で仕訳を詳しく解説します。
ストックオプションの仕訳の例
[su_box title=”ストックオプションの事例” style=”default” box_color=”#333333″ title_color=”#FFFFFF” radius=”3″]
- 公正価値10円/個のストックオプションを100人に付与する
- 3年間勤務した人が対象
- 退職予定の人数は10人
ストックオプションの付与の仕訳
2021年3月期決算の仕訳
借方 | 貸方 | ||
株式報酬費用 | 300 | 新株予約権 | 300 |
貸方の「新株予約権」は純資産勘定です。
ストックオプションを付与するということは、役員や従業員への給与を前払いするのと同じような意味になります。
そこで「株式報酬費用」という費用の勘定科目で処理します。 ストックオプションの意味とは
実は、株式報酬費用の発生のタイミングはストックオプションの付与日ではありません。
株式報酬費用は給与や人件費とみなすことができ、会社から見ると2年先の分の労働をまだしてもらっていません。
そこで、2021年は勤務した1年分のみの株式報酬費用が発生します。
退職予定の10人を除いた90人分の株式報酬費用を計上するので、以下のような計算式になります。
[su_box style=”default” title=”株式報酬費用の計算式” box_color=”#95ccff”]
【権利確定日までに発生する株式報酬費用】
10円×90人=900円
【2021年の分の株式報酬費用】
900円÷3年=300円
[/su_box]
このように、株式報酬費用は権利確定日までの期間按分をして計算します。
権利確定日の仕訳
権利行使の仕訳
借方 | 貸方 | ||
預金 | 100 | 資本金 | 200 |
新株予約権 | 100 |
権利失効の仕訳
借方 | 貸方 | ||
新株予約権 | 500 | 新株予約権戻入益 | 500 |
新株予約権が失効した場合、失効した分の新株予約権勘定を「新株予約権戻入益」という利益の勘定科目に振り替える仕訳を行います。
ストックオプションの税務上の処理
税制非適格ストックオプション
従業員への課税 | 会社の損金算入 | |
---|---|---|
ストックオプション付与 | ストックオプションの意味とは課税なし | 損金算入不可 |
権利行使 | 所得税あり(給与) | 損金計上 | ストックオプションの意味とは
株式売却 | 所得税あり(譲渡) | ー |
つまり、 税制非適格ストックオプションは所得税が課税されるタイミングが2回ある一方で、会社側は損金算入ができるという特徴があります。
法人税法第54条には下記の通り記載があります。
内国法人が、個人から役務の提供を受ける場合において、当該役務の提供に係る費用の額につきその対価として新株予約権~を発行したとき~は、当該個人において当該役務の提供につき所得税法 その他所得税に関する法令の規定により当該個人の同法 に規定する給与所得その他の政令で定める所得の金額に係る収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額を生ずべき事由(次項において「給与等課税事由」という。)が生じた日において当該役務の提供を受けたものとして、この法律の規定を適用する。
– 法人税法第54条第1項
とてもわかりにくいですが、要はストックオプションで付与される新株予約権が「役務の提供」であれば所得税課しますと言っています。
ストックオプションの権利行使の際に所得税が課されるので、給与と同じ→会社は損金算入してOK、という考え方 になっています。 ストックオプションの意味とは
ストックオプションを付与された側の課税について事例を見てみましょう。
[su_box title=”税制非適格ストックオプションの例” style=”default” box_color=”#333333″ title_color=”#FFFFFF” radius=”3″]
従業員が時価1,000円の株式を、ストックオプションの権利行使で600円取得。後日1,500円で売却。
- 権利行使:時価1,000円-行使価格600円=400円 400円に給与課税
- 株式売却:売却価額1,500円-取得時の時価1,000円=500円 500円が譲渡所得として課税
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権利行使時点では、時価と行使価格との差に給与課税、売却時点では売却価額と取得時の時価の差500円にそれぞれ課税されます。
従業員側としては、権利行使時点ではまだ株式を売却していないので手元に現金がありませんが、所得税が発生することになります。
税制適格ストックオプション
税制適格ストックオプションでは、損金算入はできません。
従業員への課税 | 会社の損金算入 | |
ストックオプション付与 | 課税なし | 損金算入不可 |
権利行使 | 課税なし | 損金算入不可 |
株式売却 | 所得税あり(譲渡) | ー |
税制適格ストックオプションでは、権利行使時点では従業員に課税はなく、株式を売却して初めて課税されます。
権利行使時点で課税が発生する税制非適格ストックオプションとは異なる点です。
ベンチャー企業などでは税制適格ストックオプションを発行することが多いようです。
権利行使時点ではまだ株式を売却していないので手元に現金がない状態で税金を支払わなくて良いことが理由です。
税制適格ストックオプションは会社側では損金算入できないので、会計上で計上した「株式報酬費用」は税務上では加算されることになります。
法人税法第54条第2項が根拠となります。
- 無償ストックオプションであること
- 年間権利行使が1200万円未満であること
- 付与時の時価以上の価格であること
- 付与の対象者が会社の役員及び使用人であること
- 行使期間は付与決議日後、2年~10年を経過する日までであること
ストックオプションの仕訳|まとめ
ストックオプションは、従業員や役員のインセンティブになり、優秀な人材を集めるための手段としても利用されます。
一方で、ストックオプションの計算方法や仕訳、税務上の取り扱いなどはかなり複雑です。
ストックオプションを導入する際は、会計士や税理士などの専門家に相談しましょう。
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